フェアリーテイル・レクイエム
内容紹介
舞台は、「お伽話症候群(フェアリーテイル・シンドローム)」の治療に特化した隔離病棟。通称「楽園」。「フェアリーテイル・シンドローム」とは自らを童話の登場人物だと思い込む人格障害の一種であり、入院患者たちは一様に「聖書」である童話絵本を抱え、その教えに従って生活している。アリスは見えない兎を追いかけ、ラプンツェルは長い髪を窓から垂らし、グレーテルは襤褸を着て兄を探す。オデットは夜にのみ水辺に降り立ち、ゲルダはカイを探しにいくために脱走を試みる。それは、童話から抜け出たというよりも、自らを役割の中に押し込めるような、どこか窮屈で痛々しい光景だった。主人公はそんな童話少女たちの楽園に、不意に紛れ込んでしまった記憶喪失の少年。何故この場所にいるのか、自分はどんな人物で何を成すべきだったのか、大事なことほどわからない。かりそめの役割を得ている少女たちがうらやましく思えるほどに、寄る辺ない。そんな折、彼の部屋で発見したスケッチブックには、乱れた筆跡でこんなことが書かれていた。──少女たちの中にひとり、つみびとがいる。